シーセッション?

女性の不況「シーセッション」が世界で深刻化と育記事があった。
https://tokyo-np.co.jp/article/90101
「女性の雇用悪化が際立っている。」ということらしい。明確には書かれていないが、男性はまだましという理解だろう。本当だろうか?

 総務省統計局の労働力調査によると、10-12月平均では、前年同期比、男性就業者は46万人、1.2%減少、女性就業者は27万、0.9%減少だった。減少人数、率とも男性の方が大きい。これは全年齢の話でだ。

 記事に合わせて25歳から54歳に限定しても、男性は44万人、1.9%減少、女性は27万人、1.5%減少で、年齢計と傾向に差はない。なお、就業率(人口に占める就業者の割合)は男性0.9%ポイント、女性0.3%ポイントの低下であった。この就業率は、25歳から54歳のものだ。

 データは労働力調査基本集計Ⅰ-2表である。
 
 いろいろな調査が発表されているが、 無作為抽出された大規模なな標本に基づく労働力調査の1月の結果からは、女性の雇用の回復が遅いとは言えない。女性の非正規の職員・従業員は前年同月に比べて68万人、4.6%減少している。これに対し男性は、22万人3.3%の減少にとどまっている。これだけを読むと、やはり女性が厳しいということになるだろうが、女性の正規の職員・従業員は53万人、4.6%増加している。非正規とは逆の動きだ。非正規から正規へ転じた雇用者も多いだろう。この二つを合わせた役員を除く雇用者は、16万人、0.6%しか減少していない。男性の正規の職員・従業員は17万人、0.7%減少している。男性非正規と同じ、女性正規とは逆の動きだ。この二つとも減少しているのだから、二つを合わせた役員を除く雇用者は、40万人、1.3%減少している。人数、率とも女性より大きい。女性の方が厳しいとは言えないだろう。

 構造的に不利な状況にあるのは女性、雇用の調整弁に使われやすいのは非正規と考えると(この考え方は正しい。)女性非正規に目が向くのは自然なことだ。しかし、これから女性の方が打撃をこうむっていると結論を出してしまうのは危険だ。もう少し範囲を広げて統計を読むべきだ。
 
 役員も含めた雇用者全体では、女性は15万人、0.6%減少した。男性も、29万人、0.9%減少している。人数、率とも、男性の方が大きい。では、自営業主、家族従業者も含めた就業者全体ではどうか?女性は20万人、0.7%減少だ。男性も減少している。30万人、0.8%の減少だ。ここまで広げても男性の方がやや厳しい。しかし、就業者には従業者のほかに休業者が含まれる。ここはどうなっているのか?
 
 女性の従業者は43万人、1.5%減少した。男性は57万人、1.6%の減少だ。男性の方が人数、率ともに大きい。女性休業者は22万人、19.3%増加した。男性は27万人33.8%の増加だった。これも男性の方が人数、率とも大きい。女性の方が厳しいとは言えない。

 細かくコメントしなかったが、率で見ると女性と男子で逆方向なのは正規だ。これ以外は方向も、幅もさしたる違いはないし、男性の方がやや厳しい。男女ともほぼ同じように打撃を受けていると判断するのが妥当だろう。

 女性の正規の職員・従業員が前年同月比増加している産業と、増加した人数は次の通り。分類不能の産業は除く。医療・福祉(13万人)、教育・学習支援業(12万人)、建設業(9万人)、卸売業・小売業(7万人)、運輸業、郵便業(6万人)、公務(4万人)、情報通信業(3万人)、電気・ガス・熱供給・水道業(2万人)、不動産業、物品賃貸業(2万人)、生活関連サービス業、娯楽業(2万人) 

 逆に減った産業は、宿泊業、飲食サービス業(5万人)、学術研究、専門・技術サービス業(1万人)である。

 15歳から64歳女性の正規の職員・従業員は2021年1月に1,161万人いるが、産業中分類でトップ3を見ると、医療業195万人、社会保険・社会福祉・介護事業が150万人、学校教育が68万人である。これらの産業は人手不足の産業でもある。
 経済の循環に対応して雇用、就業の場、所得の確保のための対策をとる必要があるのは明白だ。その対象を女性だけに限るというのは合理的ではない。ジェンダーの構造的な問題とは、一応切り離して対策を決めていくべきだ。

 税金や社会保険料によって支えられている産業の労働条件を男女を問わず改善すれば、自ずからこの分野へ労働力は流入していき、雇用状況は改善するはずである。また、国民の生活満足度も高まる。先端産業、職業にばかり目を向けても、リアリティーのある政策は出てこない。


必要があるのは明白だ。その対象を女性だけに限るというのは合理的ではない。ジェンダーの構造的な問題とは、一応切り離して対策を決めていくべきだ。

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